或日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。広い門の下にはこの男の外に誰もいない。唯、所々丹塗(ニヌリ)の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀(キリギリス)が一匹とまっている。
日本の小説家。 号は澄江堂主人(ちょうこうどうしゅじん)、俳号は我鬼(がき)。 東京出身。
東京帝大英文科卒。 在学中から創作を始め、短編「鼻」が夏目漱石の激賞を受ける。
その後、今昔物語などから材を取った王朝もの「羅生門」「芋粥」「藪の中」、中国の説話によった童話「杜子春」などを次々と発表、大正文壇の寵児となる。
西欧の短編小説の手法・様式を完全に身に付け、東西の文献資料に材を仰ぎながら、自身の主題を見事に小説化した傑作を多数発表。
1925(大正14)年頃より体調がすぐれず、「唯ぼんやりした不安」のなか、薬物自殺。
「歯車」「或阿呆の一生」などの遺稿が遺された。