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流し読む冒頭

流し読み(ながしよみ)とは集中して読むのではなく、力を抜いて軽く読むさま。読み流すさま。

晩年

ジャンル
小説
作者
太宰 治
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

放浪記

ジャンル
小説
作者
林 芙美子
十月×日
一尺四方の四角な天窓を眺めて、始めて紫色に澄んだ空を見た。
秋が来たんだ。コック部屋で御飯を食べながら私は遠い田舎の秋をどんなにか恋しく懐しく思った。秋はいゝな……。

土佐日記

ジャンル
日記
作者
紀 貫之
男もすなる日記(ニキ)といふものを女もしてみんとてするなり。それの年の、しはすの、二十日あまり一日の日の、戌(ヰヌ)のときに門出す。そのよしいささかにものに書きつく。

平家物語

ジャンル
軍記物語
作者
不明
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず。唯春の夜の夢のごとし。

吾輩は猫である

ジャンル
小説
作者
夏目 漱石
吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

文鳥

ジャンル
小説
作者
夏目 漱石
十月早稲田に移る。伽藍の様な書斎に只一人、片附けた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を飼いなさいと云う。

斜陽

ジャンル
小説
作者
太宰 治
朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、「あ」と幽(カス)かな叫び声をおあげになった。「髪の毛?」スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。

風の歌を聴け

ジャンル
小説
作者
村上 春樹
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
僕が大学生のころ偶然に知り合ったある作家は僕に向ってそう言った。

砂の女

ジャンル
小説
作者
安部 公房
八月のある日、男が一人、行方不明になった。休暇を利用して、汽車で半日ばかり海岸に出掛けたきり、消息をたってしまったのだ。捜索願も、新聞広告も、すべて無駄におわった。

伊勢物語

ジャンル
物語
作者
不明
昔、男初冠(ウヒカウブリ)して、平城の京春日の里に、しるよしして、狩にいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。この男かいまみてけり。

平凡

ジャンル
小説
作者
二葉亭 四迷
私は今年三十九になる。人世五十が通相場なら、まだ今日明日穴へ入ろうとも思わぬが、しかし未来は長いようでも短いものだ。過去って了えば実に呆気ない。まだまだと云ってる中にいつしか此世の隙が明いて、もうおさらばという時節が来る。其時になって幾ら足掻いたって藻掻いたって追付かない。覚悟をするなら今の中だ。

限りなく透明に近いブルー

ジャンル
小説
作者
村上 龍
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。

仮面の告白

ジャンル
小説
作者
三島 由紀夫
永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた。それを言い出すたびに大人たちは笑い、しまいには自分がからかわれているのかと思って、この蒼ざめた子供らしくない子供の顔を、かるい憎しみの色さした目つきで眺めた。

グスコーブドリの伝記

ジャンル
小説
作者
宮沢 賢治
グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかに生まれました。
おとうさんは、グスコーナドリという名高い木こりで、どんな大きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるようにわけなく切ってしまう人でした。

羅生門

ジャンル
小説
作者
芥川 龍之介
或日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。広い門の下にはこの男の外に誰もいない。唯、所々丹塗(ニヌリ)の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀(キリギリス)が一匹とまっている。

異邦人

ジャンル
小説
作者
アルベール・カミュ
きょう、ママンが死んだ。 もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。養老院から電報をもらった。「ハハウエノシヲイタム。マイソウアス」これでは何もわからない。恐らく昨日だったのだろう。

更級日記

ジャンル
日記
作者
菅原 孝標女
あづまぢの道のはてよりも、なほ奥つかたに生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめける事にか、世の中に物語といふ物のあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間・宵居(ヨイヰ)などに、姉・まま母などやうの人々の、その物語・かの物語・光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。

幸福

ジャンル
小説
作者
キャサリン・マンスフィールド
バーサ・ヤングは三十にもなるが、まだときおりこんな気持におそわれるときがある、歩いていずに走りたくなったり、舗道の上でダンスのステップを踏んでみたくなったり、輪まわしをころがしてみたくなったり、なにかを宙にほうりあげてそれを受けとめてみたくなったり、そうかと思うと、じっと立ち止まって――なんということもなく――まったく、なんということもなく笑いたくなったり……。

大東亜戦争終結ノ詔書

ジャンル
演説
作者
迫水 久常
朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現狀トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク

駈込み訴え

ジャンル
小説
作者
太宰 治
申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。