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流し読む冒頭

流し読み(ながしよみ)とは集中して読むのではなく、力を抜いて軽く読むさま。読み流すさま。

更級日記

ジャンル
日記
作者
菅原 孝標女
あづまぢの道のはてよりも、なほ奥つかたに生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめける事にか、世の中に物語といふ物のあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間・宵居(ヨイヰ)などに、姉・まま母などやうの人々の、その物語・かの物語・光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。

ジャンル
小説
作者
芥川 龍之介
禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。

高瀬舟

ジャンル
小説
作者
森 鴎外
高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に罪人が遠島を申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞いをすることを許された。

晩年

ジャンル
小説
作者
太宰 治
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

佳人

ジャンル
小説
作者
石川 淳
わたしは……ある老女のことから書きはじめるつもりでいたのだが、いざとなると老女の姿が前面に浮んで来る代りに、わたしはわたしはと、ペンの尖が堰の口ででもあるかのようにわたしという溜り水が際限もなくあふれ出そうな気がするのは一応わたしが自分のことではちきれそうになっているからだと思われもするけれど、じつは第一行から意志の押しがきかないほどおよそ意志などのない混乱におちいっている証拠かも知れないし、あるいは単に事物を正確にあらわそうとする努力をよくしえないほど懶惰(らんだ)なのだということかも知れない。

学問のすすめ

ジャンル
小説
作者
福沢 諭吉
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。

ジャンル
小説
作者
谷崎 潤一郎
先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど、折角お仕事中のとこかまいませんですやろか?

野菊の墓

ジャンル
小説
作者
伊藤 左千夫
後の月という時分が来ると、どうも思わずにはいられない。幼い訳とは思うが何分にも忘れることができない。

田舎教師

ジャンル
小説
作者
田山 花袋
四里の道は長かった。その間に青縞の市の立つ羽生の町があった。田圃にはげんげが咲き豪家の垣からは八重桜が散りこぼれた。赤い蹴出(ケダシ)を出した田舎の姐さんがおりおり通った。

枕草子

ジャンル
随筆
作者
清 少納言
春は、曙。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこし明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

文鳥

ジャンル
小説
作者
夏目 漱石
十月早稲田に移る。伽藍の様な書斎に只一人、片附けた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を飼いなさいと云う。

限りなく透明に近いブルー

ジャンル
小説
作者
村上 龍
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。

細雪

ジャンル
小説
作者
谷崎 潤一郎
「こいさん、頼むわ。―」鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛(ハケ)を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢(ジュバン)姿の、抜き衣紋(エモン)の顔を他人の顔のように見据えながら……。

斜陽

ジャンル
小説
作者
太宰 治
朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、「あ」と幽(カス)かな叫び声をおあげになった。「髪の毛?」スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。

紫式部日記

ジャンル
日記
作者
紫 式部
秋のけはひ入り立つままに、土御門殿(ツチミカドデン)のありさま、いはむかたなくをかし。

死ぬことと見つけたり

ジャンル
小説
作者
隆 慶一郎
死は必定と思われた。つい鼻の先に、刑務所の壁のように立塞がっていた。
昭和18年12月。
僕は9月の末に20歳になったところだった。

帰去来

ジャンル
小説
作者
太宰 治
人の世話にばかりなって来ました。これからもおそらくは、そんな事だろう。みんなに大事にされて、そうして、のほほん顔で、生きて来ました。これからも、やっぱり、のほほん顔で生きて行くのかも知れない。そうして、そのかずかずの大恩に報いる事は、おそらく死ぬまで、出来ないのではあるまいか、と思えば流石さすがに少し、つらいのである。

羅生門

ジャンル
小説
作者
芥川 龍之介
或日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。広い門の下にはこの男の外に誰もいない。唯、所々丹塗(ニヌリ)の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀(キリギリス)が一匹とまっている。

和泉式部日記

ジャンル
日記
作者
和泉 式部
ゆめよりもはかなき世の中をなげきわびつつあかしくらすほどに、四月十よひにもなりぬれば、木のしたくらがりもてゆく。

小さき者へ

ジャンル
小説
作者
有島 武郎
お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。時はどんどん移って行く。お前たちの父なる私がその時お前たちにどう映るか、それは想像も出来ない事だ。